ナレーションの仕事に興味はあるけれど、自分の声を人に聞かせるのは気が重い。
AI音声ナレーション代行は、依頼する人から原稿を受け取り、AI音声合成ツールで読み上げの音声を作って、聞き直して整えてから納める仕事です。読み上げるのはツールなので、自分の声を人に聞かせることはありません。
気がかりなのは、ツールが作った声を仕事として納めてよいのか、という点でしょう。そのうえで、頼まれる読み上げの中身、自分の耳で確かめる作業、金額の決まり方も、受ける前に押さえておきたいところです。最初に、AIの声を仕事で使ってよいかの決まりから見ていきます。
AI音声ツールの規約と、納品に使えるプラン
音声を作ったのがツールである以上、その音声を人に売ってよいかは、ツールの利用規約と、契約しているプランで決まります。無料で音声が作れるツールでも、無料のままでは納品に使えないものがあります。
| ツール | 商用で使える条件 | 納品で気をつけること |
|---|---|---|
| ElevenLabs | 商用ライセンスが付くのは、有料のStarterプラン以上。無料プランには付かない | 納める音声は、有料プランに切り替えてから作る |
| Murf AI | Creatorプラン以上に、商用利用の権利が付く | 月払いと年払いで金額が変わるので、料金ページで見る |
| VOICEVOX | 無料のまま、商用・非商用とも使える。VOICEVOXを使ったと分かるクレジット表記が要る | 声のキャラクター(音声ライブラリ)ごとの規約にも従う |
| CoeFont | 無料プランは、商用ではない使い方向け | 仕事で使うなら有料プランにする |
| VOICEPEAK(商用可能 6ナレーターセット) | 商用・業務で使え、基本的に連絡は要らない | ほかのアプリに組み込むような使い方は、別に問い合わせる |
※各ツールの公式サイトの規約・料金ページによります。プランの中身は変わることがあるので、受ける前に公式サイトで見直してください。
クレジット表記を入れる人と場所
VOICEVOXの声のうち、たとえば「ずんだもん」は、音源の利用規約で「VOICEVOX:ずんだもん」のようなクレジット表記を求めています。表記をせずに商用で使うには、キャラクター1つにつき40万円(+消費税)の契約が必要とされています。動画なら、説明欄や動画の中のクレジットのように、見る人がたどれる場所に書きます。
表記を入れるのは、音声を自分のチャンネルや教材に載せる側、つまり多くの場合は依頼した人です。受ける側は、納品のメッセージに表記の文言をそのまま書き添え、どこに入れればよいかも一言伝えておきます。
人の声をまねた音声(ボイスクローン)の扱い
ElevenLabsのように、録音した声を学ばせて同じ声で読ませる機能(ボイスクローン)を持つツールがあります。自分以外の声を学ばせて使うときは、その人の同意が必要です。「有名な人の声に似せてほしい」と頼まれても、本人が同意していなければ引き受けないのが安全です。
AIナレーションが頼まれる用途
同じ「ナレーション」でも、使われる場所によって、依頼する人が気にする点が違います。
| 使われる場所 | 求められやすいこと | 頼まれ方 |
|---|---|---|
| YouTubeの動画 | 動画の雰囲気に合う声と、決まった日までの納品 | 同じチャンネルから続けて頼まれやすく、定期の納品になりやすい |
| ポッドキャスト | 抑揚や間の取り方。長く聞いても疲れない自然さ | 1回の配信(エピソード)ごとに頼まれることが多い |
| 社員研修・eラーニングの教材 | 言葉や数字の正しさがいちばん。尺が長い | 1つの教材をまとめて頼まれ、1件の量が大きい |
| SNSのショート動画 | 速さ | 短い音声を、短い期限で |
| ブログ記事・電子書籍の音声化 | 最後まで同じ調子で読めている声 | 1本ずつ、または何本かまとめて |
どの用途でも、依頼する人が重く見るのは、AIの性能そのものより、声が自然に聞こえるかと、納期に間に合うかです。応募するときは、ツールの名前を並べるより、受ける用途に近い声の見本を聞いてもらうほうが伝わります。
一方で、感情の起伏が大きいキャラクターの声、長いドキュメンタリー、何か国語にもわたるナレーションは、AIの声では仕上げにくい領域とされます。こうした依頼は人のナレーターに頼まれることも多いため、AIの声で受けるなら、どこまでの仕上がりになるかを見本で先に示しておきます。
ナレーションの音声だけを納めるより、音量をそろえる、BGMを入れる、字幕と合わせるといった作業まで含めて動画1本ぶんを請け負うほうが、1件の金額が上がりやすいという指摘もあります。動画の編集ができるなら、受ける範囲を広げる道として覚えておけます。
原稿を受け取ってから納めるまで、AIに任せる作業と耳で確かめる作業
1件の流れを分けると、ツールが受け持つのは音声を作るところで、その前後の多くは人の作業です。
| 工程 | AIに任せる部分 | 自分でする部分 |
|---|---|---|
| 原稿の読みを整える | チャット型のAIに、読み間違えやすい言葉の候補を拾わせる | 名前や専門用語の正しい読みを、依頼した人に確かめる |
| 音声を作る | 音声合成ツールが、原稿を読み上げる | 声の種類、話す速さ、文と文の間を選ぶ |
| 聞き直す | (任せない) | 最初から最後まで、原稿を見ながら通して聞く |
| 整える・書き出す | (任せない) | 音量と間をそろえ、指定の形式で書き出す |
| 納める | (任せない) | 使ったツール名と、クレジット表記の文言を伝える |
読み間違えやすい言葉の洗い出し
音声合成ツールは、人や会社の名前、数字と単位、アルファベットの略語、読み方が2通りある漢字で、意図と違う読みをすることがあります。音声を作ってから気づくと、作り直しの手間とクレジットの消費が増えます。そこで、音声を作る前に、原稿のどこが危ないかをチャット型のAIに拾わせておきます。原稿をAIに読み込ませてよいかは、先に依頼した人に確かめてからにします。
指示文の例
次は、AI音声合成ツールで読み上げるナレーションの原稿です。音声合成ツールが読み間違えやすい言葉を、原稿から拾い出してください。
・拾うのは、人や会社の名前、数字と単位、アルファベットの略語、読み方が2通り以上ある漢字です
・「原稿の言葉」「読み間違えやすい理由」「読みの候補(ひらがな)」の3列の表にしてください
・読みが決められない名前は、候補を書かずに「依頼者に確認」と書いてください
・原稿の文そのものは、書き換えないでください
原稿:〔受け取った原稿を貼る〕
表が出てきたら、「依頼者に確認」となった言葉と、候補が2つ以上ある言葉をまとめて、依頼した人に1回で聞きます。名前の読みをAIの候補で決めてしまうと、合っているかどうかを誰も確かめないまま納品されてしまいます。読みが決まったら、ツールに入れる原稿の側だけをひらがなに直し、受け取った原稿のファイルはそのまま残します。字幕に原稿を使う依頼なら、ひらがなに直した版を渡さないように気をつけます。
納品の前に、最初から最後まで通して聞く
AIに拾わせた言葉が直っていても、それ以外の場所で読みが崩れていることがあります。早送りせずに一度通して聞き、下の点を確かめてから納めると、直しのやり取りが少なくなります(当ブログで整理した確認項目です)。
- 読み: 名前・数字・英語を、原稿と照らして聞く
- 音量と間: 途中で音量が変わっていないか。不自然な間や、音の途切れがないか
- ファイル: WAV・MP3などの形式と、1本にまとめるか章ごとに分けるかが、頼まれたとおりか
- 伝えること: 使ったツールの名前と、要るクレジット表記の文言を書いたか
- 直しの範囲: 無料で直す回数と範囲を、受ける前に決めてあるか
通して聞くときは、パソコンのスピーカーだけでなく、ヘッドホンでも聞いておくと、小さな雑音や不自然な間を聞き分けやすくなります。録音や編集の確認向けに作られたモニターヘッドホンには、次のようなものがあります。
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AIの声で作ることの伝え方
クラウドワークスの「AI活用に関するポリシー」は、AIを使って仕事をすること自体を禁じておらず、使うかどうかは依頼する人と受ける人の取り決めに任せています。受ける人には、使ってよいかを前もって確かめること、使ったことを隠さないこと、募集文などで示された可否を守ることが求められています。依頼する人の側にも、きちんとした説明もなく、AIを使ったことだけを理由に値下げしたり受け取りを断ったりしないよう求めています。
ナレーションの募集には、人が自分の声で読むことを前提にしたものもまざっています。応募の文に「AI音声合成ツール(〔ツール名〕)で作り、名前や数字の読みはご確認のうえで仕上げます」のように書き、AIの声の見本を付けて、人の声を求める募集かどうかを最初に見分けてもらいます。原稿をAIのツールに入れてよいかも、そのときにあわせて聞いておきます。
YouTubeで使われるときのAIの開示
納めた音声がYouTubeの動画に使われる場合、AIで作ったことを申告するかどうかは、動画を投稿する人がYouTubeの決まりに沿って決めます。YouTubeヘルプ「生成AIコンテンツの使用に関する開示」には、次のように書かれています。
- 開示が要る例: 実在の人物が、実際には言っていないことを言っているように見せるもの
- 開示が要らない例: 自分の声をクローニングしたナレーションや吹き替え、台本やタイトルづくりのような軽い制作の手伝い
- 設定する場所: YouTube Studioの「属性」にある「AIの使用」で、「はい」か「いいえ」を選ぶ
- 怠った場合: 意図して開示しないことをくり返すと、ラベルが手動で付けられたり、コンテンツの削除やYouTubeパートナープログラムへの参加停止につながったりする可能性がある
実在の人物ではない合成の声のナレーションが開示の対象になるかは、ヘルプの例には挙がっていません。受ける側は、納品のときに「AI音声で作ったこと」と「使ったツール」を伝え、投稿する人が判断できるようにしておきます。迷う場合の確かめ先は、上のヘルプです。
読みの下ごしらえのように、チャット型のAIは音声を作る前後の細かな作業でも使えます。生成AIの業務での使い方を講座で身につけたい人には、DMM 生成AI CAMPというオンラインのスクールがあり、学べる内容と受講料はコースごとに公式サイトで案内されています。
練習に使える無料ツールと、仕事用の料金プラン
声の選び方や、速さ・抑揚の調整に慣れるまでは、無料で使えるVOICEVOXや、CoeFontの無料プランで練習できます。仕事を受ける段階になったら、最初の章の表で「商用で使える」とされたプランに切り替えます。
| ツール | どんなツールか | 料金 |
|---|---|---|
| ElevenLabs | 海外のAI音声合成。声を学ばせる機能や、声を登録して使ってもらう仕組み(Voice Library)もある | Starterは月6ドル、Creatorは月22ドル(どちらも商用ライセンスあり) |
| Murf AI | ナレーションやプレゼンの音声づくりに向く | Creatorプランは月19ドルから(商用利用の権利あり) |
| VOICEVOX | 「ずんだもん」など20種類以上の声を持つ、無料で公開されているソフト。パソコンの中で動く | 無料 |
| CoeFont | 10,000種類以上の声から選べる、ブラウザで使うサービス | 無料プランあり。個人向けの有料プランは月3,300円 |
| VOICEPEAK | 感情の表現が豊かな、国産の買い切りのソフト。ネットにつながずに使える | ダウンロード版23,800円、パッケージ版29,800円(月額なし) |
※料金は各公式サイトによります。ドル建ての料金は、為替で円での支払額が変わります。
月額を払い続けたくない人や、社外に出せない原稿をネットにつながないパソコンで仕上げたい人には、買い切りのVOICEPEAKが候補になります。毎月の本数が読めるようになってから、月額のツールと比べて決めても遅くありません。
ElevenLabsの料金プランとクレジット
| プラン | 月額 | 月のクレジット | 商用ライセンス |
|---|---|---|---|
| Free | 0ドル | 1万 | 付かない |
| Starter | 6ドル | 3万 | 付く |
| Creator | 22ドル | 12.1万 | 付く |
※公式の料金ページによります。初月の割引が表示されていることがあります。
クレジットは、音声を作るたびに減っていきます。1クレジットで何文字ぶん読めるかは使うモデルによって変わるため、公式サイトの説明で確かめてください。読み間違いで作り直すとそのぶんもクレジットを使うので、前の章の読みの確認を先に済ませておくと、月の残りを見ながら本数の計画を立てやすくなります。
応募に添える声の見本と原稿
声の見本は、30秒ほどの音声を、ニュースを伝える読み、商品を紹介する読み、物語の読みのように声の種類を分けて何本か用意しておくと、受けられる用途の幅が伝わります。見本の原稿をほかの人の文章から借りるわけにはいかないので、チャット型のAIに書かせます。
指示文の例
AI音声ナレーションの見本に使う原稿を3本書いてください。どれも〔30〕秒ほどで読み終わる長さにしてください。
・1本目は、地域のできごとを伝えるニュースの読み方
・2本目は、架空の〔キッチン用品〕を紹介する、明るい読み方
・3本目は、落ち着いた声で読む短い物語
・実在の会社名、商品名、人の名前は使わないでください
・どの原稿にも、数字と、カタカナの言葉を1つ以上入れてください
数字とカタカナの言葉を入れさせたのは、見本を聞いた人に、読みのくせまで整えてあることを確かめてもらうためです。3本を同じ声で読ませるのではなく、原稿ごとに声の種類と速さを自分で選び直し、選んだ理由を1行ずつ書き留めておくと、応募の文でそのまま説明に使えます。見本も、納品と同じく商用で使えるプランで作っておきます。
ナレーションの単価相場
公式に出ている相場は、人が自分の声で読むナレーションも含んだ金額です。
| 出どころ | 金額 |
|---|---|
| クラウドワークス「発注相場」(声優・ナレーション) | 10,000円〜 |
| ランサーズ「仕事の種類・参考価格」(ナレーション) | 1〜3分で5,000〜30,000円 |
※各社の公式ページによります。
AIの声で作るナレーションだけを分けた公式の相場は、どちらのサービスにもありません。ランサーズの参考価格は1〜3分あたりで示されているので、見積もりを出すときは、受ける原稿が読み上げて何分になるかに合わせて読み替えます。研修教材のように尺の長い仕事ほど、1件の金額は大きくなります。
実績のないうちは、ココナラやランサーズで金額の小さい仕事から受け、評価と見本がそろってから、尺の長い研修教材や、英語でやり取りする海外のサービスへ広げていく順番が現実的です。
手数料を引いたあとの手取り
受けた金額は、そのまま全額は入りません。ココナラは販売手数料が22%(税込)、ランサーズはシステム利用料が16.5%(税込)です。
| 販売価格・契約金額 | ココナラ(22%) | ランサーズ(16.5%) |
|---|---|---|
| 3,000円 | 2,340円 | 2,505円 |
| 5,000円 | 3,900円 | 4,175円 |
| 10,000円 | 7,800円 | 8,350円 |
※当ブログの計算。手数料を引いた金額で、口座へ移すときの振込手数料は含めていません。
海外のサービスでは、Fiverrは注文額の80%が受け取り分、Upworkの手数料は契約ごとに0〜15%と、それぞれ公式ヘルプに書かれています。値付けをするときは、ツールの月額も差し引いて、1件あたりに残る金額で考えます。
ココナラでは、「AI音声でナレーションを作ります」というサービスを出品して、買われるのを待つ形になります。会員登録は買う側と同じで無料ですが、出品する前に「出品者情報」の登録が要ります。
収入を安定させる受け方
1件ずつの注文だけを追っていると、毎月、新しい依頼者を探すところから始めることになります。何件か納めて評価がついたら、同じ依頼者に続けて頼んでもらう形へ切り替えていきます。

- 月ごとのまとめた形で提案する: 「ポッドキャストのナレーションを月4本、月額〇円で」のように、本数と金額を先に決めて示す。YouTubeやポッドキャストのように定期的に出すものは、この形に向いている
- 2本目からの作業を型にする: 同じ依頼者の声の種類・速さ・書き出しの形式を控えておき、毎回ゼロから選ばずに済むようにする。浮いた時間は、本数を増やすか、金額の相談に回す
- 受けた仕事の評価を、次の提案に使う: 納めた仕事の評価や、依頼した人の了承を得た見本を、次の応募に添える
- SNSで見本を出し、直接の依頼につなげる: XやInstagramで声の見本を出していると、会社から直接頼まれる経路ができることもある。サービスを通さない取引では、手数料がかからないかわりに、請求や支払いの取り決めを自分でする
月ごとの契約が2〜3本あると、収入が安定しやすいとされます。収入がどう伸びていくかの見立ては、下の表のとおりです。
※下の表は、当ブログの見立てによる目安です。
| 時期 | 月の収入の目安 | していること |
|---|---|---|
| 始めて〜2か月目 | 0〜1万円程度 | 金額の小さい仕事で、評価と見本をそろえる |
| 3〜4か月目 | 1〜3万円程度 | 単発の注文が増え、月ごとの契約を提案し始める |
| 月ごとの契約が続いた場合 | 5〜9万円程度 | 複数の依頼者と、月額の契約が続いている |
代行とは別に、ElevenLabsには、自分の声を登録して公開し、ほかの人に使われると報酬を受け取れる仕組み(Voice Library)もあります。自分の声を録音して出すことになるので、声を出さずに続けたい人には向きません。報酬の料率は、公式サイトで確認してください。
月ごとの契約が続くと、受け取る報酬も毎月積み上がります。会社員の副業では、所得(売上から経費を引いた額)が年に20万円を超えると確定申告が必要で、20万円以下でも住民税の申告は要ります。音声合成ツールの月額や、声を録るためのマイクの代金は、経費にできる場合があります。会社と直接の契約が増えてきたら、インボイスの登録が要るかどうかも考えておきます。月ごとの入金と経費を記録しておける会計ソフトは、次の記事で比べています。


