英語が少し読めるから翻訳の副業を、と思い立っても、AIが一瞬で訳してしまう今、自分の出る幕があるのかと心細くなります。
AI翻訳・海外リサーチ代行は、英語の文書を日本語の訳文に仕上げたり、海外のニュースや企業の情報を日本語のレポートにまとめたりして納める副業です。パソコンで完結し、顔も声も出しません。
AIに任せきれない作業があるとしたら、それはどこなのでしょう。自分の腕前に見合う単価や、仕事の探し先は、その次に考えることになりそうです。AIの訳文と原文を並べると、手がかりが見えてきます。
AI翻訳がある今、翻訳の副業で頼まれる作業
このジャンルの仕事は、どれもAIの下訳や要約を出発点にして、人が仕上げる形です。お金になるのは、その訳を原文と照らして直す部分です。受け取るものと納めるものは、仕事の形ごとに違います。
| 仕事の形 | 受け取るもの | 納めるもの | 人が受け持つ部分 |
|---|---|---|---|
| 翻訳 | 英語などの原文(ビジネス文書、Webページなど) | 日本語の訳文、または日本語から外国語への訳文 | AIの下訳を原文と照らし、誤訳と不自然な言い回しを直す |
| MTPE(機械翻訳ポストエディット) | 原文と、機械翻訳した訳文 | 直した訳文 | 機械翻訳の訳文を直すことだけを受け持つ。翻訳の中でも、直す作業に特化した形 |
| 字幕翻訳(映像翻訳) | 海外の動画と、その原稿 | 字幕のデータ | 1枚の字幕に収まる長さに縮め、話し言葉として自然にし、表示のタイミングを合わせる |
| 海外リサーチ代行 | 調べるテーマと、まとめ方の指定 | 日本語のレポートや一覧表 | 情報源を選び、数字と固有名詞を原文で確かめ、結論をまとめる |
語学力について言えば、自分で一から訳せる力までは求められませんが、原文を読んで「この訳は意味が違う」と気づける力は要ります。AI翻訳は、否定を落としたり、原文にない内容を足したりすることがあります(原文にないことを作り出すことを「ハルシネーション」と呼びます)。こうした誤りを見逃さないことが、この仕事の中身です。前の仕事で扱っていた分野(IT、医療、法律、製造など)があれば、その分野の専門用語に気づきやすくなるので、受ける分野を選ぶときの手がかりになります。
始めるまでは、下の図の順に進めます。練習で自分の直す速さを知り、それから応募先を選び、受ける前に預かったものの扱いを確かめます。

公開されている英文で、AIの訳の誤りを探す練習をする
練習には、企業が出しているプレスリリースや、海外のニュースサイトの記事のように、誰でも読める英文を使います。同じ段落を2つの翻訳ツールにかけ、訳文を並べて、原文と1文ずつ照らします。使うツールは、無料版で始められます。
| ツール | 向いている使い方 |
|---|---|
| DeepL | 最初の下訳を作る。訳文が自然とされる |
| Google翻訳 | DeepLの訳と並べて、食い違う箇所を見つける。対応する言語が多いので、英語以外のページを読むときにも使える |
| ChatGPT | 「もっと丁寧に」のように、言い回しの調子を会話で指示して整える |
| Claude | 下訳の言い回しを整える。決められた書き方に沿わせる使い方に評価がある |
どれか1つがいつも正しいわけではありません。2つ以上の訳を見比べる前提で使います。
照らすときは、数字、日付、人や会社の名前、「not」「no longer」のような否定、「may」「should」のような言い切りの強さを、原文と1つずつ見ます。ここで訳が食い違っていれば、どちらかが誤っています。1,000文字ぶんの訳を直し終えるまでの時間を、ストップウォッチで測っておくと、あとで単価を見るときに使えます。
見落としを減らすために、文章を作るAI(ChatGPTやClaude)に、原文と訳文の食い違いを洗い出させる使い方があります。AIには訳を直させず、食い違いの候補を出させるだけにして、直すかどうかは原文を読んで自分で決めます。
指示文の例
次の英文と日本語訳を、文ごとに対応させてください。そのうえで、(1)訳から抜けている情報、(2)原文にない情報、(3)数字・日付・固有名詞の食い違い、(4)否定や「〜かもしれない」の強さの食い違い、の4つに当てはまる箇所を、表にして挙げてください。表の列は「英文の該当箇所」「訳文の該当箇所」「どの種類か」「理由(1行)」にしてください。直した訳文は出さないでください。当てはまる箇所がなければ「なし」と書いてください。
英文:〔ここに公開されている英文を貼る〕
日本語訳:〔ここにAI翻訳の訳文を貼る〕
AIが挙げた箇所は、原文に戻って確かめます。AIの指摘そのものが誤っていることもあるので、「AIが言ったから直す」ではなく、原文を読んで納得できたところだけを直します。逆に、AIが「なし」と答えても、数字と固有名詞は自分の目で原文と照らします。もう1つの確かめ方として、直した訳文を別のツールで元の言語に訳し戻し、意味がずれていないかを見る方法(逆翻訳)もあります。
AIに任せないのは、最後にどの訳語を使うかを決めることと、分野の言い方に合っているかの判断です。たとえば社内の呼び方や業界の決まった言い方は、発注者から渡された用語集や過去の訳文に合わせます。
上のような指示文の組み立て方を、独学ではなく講座で順に学びたい場合は、生成AIの使い方を教えるオンライン講座のDMM 生成AI CAMPがあります。受講料と学べる中身は、申し込む前にDMM 生成AI CAMPの公式ページで見ておいてください。生成AIの講座どうしの違いは、次の記事で比べています。
1時間に直せる量から、受けてよい単価を決める
翻訳の単価は、クラウドワークスの「発注相場」とランサーズの「仕事の種類・参考価格」に出ています。どちらも依頼する側に向けた目安の表で、文字数やワード数あたりの値段で書かれています。
| 言語の組み合わせ | クラウドワークス「発注相場」 | ランサーズ「参考価格」 |
|---|---|---|
| 英語 | 英語翻訳 6円〜/文字 | 英→日 6.0〜8.0円/ワード、日→英 5.0〜6.0円/文字 |
| 中国語 | 6円〜/文字 | 中↔日 2.0〜6.0円/文字 |
| 韓国語 | 6円〜/文字 | 韓↔日 4.0〜6.0円/文字 |
MTPEと字幕翻訳は、どちらの表にも項目がありません。下の金額は、当ブログの見立てによる目安です。
| 仕事の形 | 目安(当ブログの見立て) | 金額を左右すること |
|---|---|---|
| MTPE(軽い修正) | 1文字0.5〜1円程度 | 意味が通るところまで直すのか |
| MTPE(正確さまで直す修正) | 1文字1〜2円程度 | 訳語の統一や読みやすさまで求められるのか |
| 英日の字幕翻訳 | 動画1分300〜800円程度 | 英日は担い手が多く上がりにくい。専門分野や、担い手の少ない言語の組み合わせは上がりやすい |
MTPEは1文字あたりの金額が小さいぶん、こなす量で月の金額が決まります。月5万円にするには何文字直すことになるかを、単価ごとに割り算しました。
| 1文字あたりの単価 | 月5万円に必要な文字数 | 月25日で割った1日あたり |
|---|---|---|
| 0.5円 | 100,000文字 | 4,000文字 |
| 0.8円 | 62,500文字 | 2,500文字 |
| 1円 | 50,000文字 | 2,000文字 |
| 2円 | 25,000文字 | 1,000文字 |
5万円を単価で割った数です。応募先の手数料を引く前の金額で計算しています。
ここで、練習で測った時間を当てはめます。たとえば1,000文字を直すのに1時間かかるなら、1日2,000文字は2時間です。平日の夜に使える時間がそれより短いなら、単価0.5円の募集は、月5万円をめざすには量が合いません。示された単価に、自分が1時間に直せる文字数を掛けて、1時間あたりの金額を出してから応募するかを決めます。
手元に残る金額は、応募先の手数料を引いたあとです。クラウドワークスのシステム利用料は、契約金額のうち10万円以下の部分が20%で、利用料には別に消費税がかかります。ランサーズのシステム手数料は、契約金額(税込)の16.5%です。当ブログで計算すると、契約金額(税込)5万円の仕事なら、手元に残るのはクラウドワークスで39,000円、ランサーズで41,750円です。応募先ごとの手取りの違いは、次の記事で金額別に並べています。
翻訳の仕事の応募先と、登録のしかた
翻訳の仕事を受ける窓口は、登録のしかたで分かれます。最初の1件までの道のりが違うので、自分の状況に合うところから始めます。
| 窓口 | 登録のしかた | 仕事の受け方 |
|---|---|---|
| Gengo | 選択式と筆記の2段階のテストに合格する | 翻訳の依頼が届き、受けられるものを選ぶ。報酬は言語の組み合わせと翻訳のレベルで変わる(金額は公式のトランスレーター向けページで確認) |
| クラウドワークス/ランサーズ | プロフィールを書いて登録する | 翻訳やリサーチの募集を探し、応募文を送る。翻訳以外の仕事も多い |
| 翻訳者ネットワーク「アメリア」 | 会員になる(年会費制) | 会員向けの求人を見て応募する。実務翻訳から映像翻訳まで扱う |
| Upwork | 英語でプロフィールを作る | 海外の発注者と英語でやり取りして受ける |
クラウドワークスとランサーズで応募するときは、選ばれる手がかりを応募文に書きます。訳したことのある分野、訳した文字数、前の仕事で扱っていた専門分野を、具体的に書きます。まだ仕事の実績がない段階では、練習で直した公開の英文から、訳文のサンプルを1〜2本作っておき、見せられるようにします。プロフィールに書ける資格がほしい場合は、日本翻訳連盟のJTFほんやく検定のような、翻訳の検定を受ける道もあります。
どの窓口でも、翻訳でAIを使うかどうかは、募集の条件と発注者の考えで決まります。AIを使う前提で応募するなら、「AI翻訳で下訳を作り、原文と照らして直します」と、使い方を応募文に書いておくと、あとで食い違いが起きにくくなります。
アメリアは、翻訳の仕事に絞った求人を探したい人向けの会員制サービスです。求人は年間1,000件以上で、そのうち約3割は未経験でも応募できるとされています。毎月の「定例トライアル」(プロの翻訳者などが訳文を判定する模擬試験。1回1,650円)を受けると、自分の訳がどの水準かを知る材料になります。入会金と年会費は、無料の資料請求か公式サイトで金額を見てから、入るかどうかを決めてください。
海外リサーチ代行は、AIに読ませる部分と自分で確かめる部分を分ける
海外リサーチ代行は、海外のニュースサイト、企業のWebページ、SNSなどを読み、頼まれたテーマについて日本語でまとめる仕事です。訳文をそのまま納めるのではなく、「何が分かったか」を整理して渡すところが、翻訳との違いです。報酬は、件数で決まる調査と、レポート1本で決まる調査で、金額の桁が変わります。
| 仕事の中身 | 報酬の目安 |
|---|---|
| Webリサーチ・データ収集 | ランサーズの参考価格は、データ調査・分析・統計で500〜3,000円/100件。当ブログの見立てでは、時給1,000〜1,800円程度 |
| 市場調査のレポート | クラウドワークスの発注相場は、市場調査・リサーチで30,000円〜(アンケート調査から集計レポートまでの例) |
| 専門分野のリサーチ | 時給2,500円以上(当ブログの見立て) |
| 海外の記事をAI翻訳して書き直す仕事 | 1記事2,000〜5,000円程度(当ブログの見立て) |
| スライドの形のレポート | スライド1枚あたりいくら、という形の募集もある |
作業は、情報源を集める、AI翻訳で読む、要点をまとめる、原文で確かめる、の順に進めます。英語以外のページも出てくるので、対応する言語の多いGoogle翻訳が役に立つ場面があります。
要点を集めたあと、レポートの骨組みを作るところで、文章を作るAIを使えます。このとき、AIが出どころのない話を書き足さないように、どの情報源から来た話かを必ず付けさせます。
指示文の例
次は、〔欧州の電動自転車の市場〕について、海外の記事〔4本〕から私が書き出した要点です。要点ごとに、出どころの記事のURLを付けています。これだけをもとに、〔国内のメーカーの企画担当〕に渡すレポートの見出しと、見出しごとの要点の並べ方を作ってください。どの要点にも、出どころのURLをそのまま付けてください。記事どうしで数字や見方が食い違うところは、まとめずに「食い違いあり」として両方を並べてください。ここにない数字や見方は足さないでください。
〔ここに要点とURLを貼る〕
骨組みができたら、レポートに載せる数字と固有名詞を、AI翻訳の訳文ではなく原文のページで1つずつ確かめます。訳の段階で単位や桁がずれていることがあるからです。どの情報源を信じるか、食い違う数字のどちらを採るか、そこから何が言えるかは、AIに決めさせず、自分で判断してレポートに書きます。情報源の発行元と日付も、レポートの中に残しておくと、受け取った人があとで確かめられます。
預かった原稿は、AIのツールに入れてよいかを先に聞く
翻訳もリサーチも、発注者の社内資料や、まだ公表していない情報を預かることがあります。AIのツールに入れた文章がどう扱われるかはツールとプランで違うので、受ける前に、何を使ってよいかを発注者と決めておきます。
- 使ってよいかを先に聞く: クラウドワークスは、AIを使って仕事をすること自体は禁止せず、使ってよいかを事前に発注者に確かめること、使っていることを意図して隠さないこと、機密性の高い情報をAIツールに入れるときは扱いに気をつけることを、受ける側に求めています。ランサーズには、依頼する側が生成AIを使ってよいか・使わないでほしいかを選べる仕組みがあります
- 無料版に機密を入れない: DeepL Proは、入力した文章を学習に使わないとしています。無料版は、その扱いがPro版ほどはっきりしていません。社外に出せない原稿を扱うときは、使ってよいと言われたツールの、データを学習に使わないプランで作業します
- 秘密保持契約(NDA)を読む: 結ぶ前に、秘密にする範囲、契約が終わったあと何年続くか、違反したときの違約金があるかを確かめます
- 訳文とレポートの権利: 納めた訳文やレポートの著作権は、契約で発注者のものになるのが一般的です。サンプルとして人に見せてよいかは、契約のときに聞いておきます
- 報酬の支払期日: 2024年11月に施行されたフリーランス新法で、発注する事業者は、納めたものを受け取った日から60日以内に報酬を払うことになっています。契約で支払日が決まっているかを確かめる材料になります
有料プランの料金は、DeepL ProのIndividualプランが月払いで1,380円(年払いなら月あたり1,150円)、ChatGPT Plusが月額3,000円(消費税込み)、Claude Proが月払いで20ドル(年払いなら月あたり17ドル)です。どれも最初から入る必要はなく、機密のある原稿を受けることになり、発注者がそのツールを使ってよいと言ったときに入れば足ります。
副業で得た所得(売上から経費を差し引いた額)が1年で20万円を超えたら、会社員でも確定申告をします。20万円に届かない年も、住民税の申告は別に要ります。翻訳ツールやAIの有料プランの利用料、アメリアの年会費や定例トライアルの受験料は、経費にできる場合があるので、領収書を月ごとにまとめておきます。翻訳会社と続けて取引するときは、インボイスの登録が要るかを取引先に聞いておくと、あとで慌てずに済みます。記帳と申告書づくりに使う会計ソフトの選び方は、次の記事にまとめています。




